《街のよりそいさん数珠つなぎ》インタビュー(六回目)

【インタビューアー】廣田貴也・水野亮太
【インタビュー日】2021年11月11日(木)

《今回のよりそいさん》
 恩田さん(浪速少年院教育調査官)
 北永さん(浪速少年院教育部門)
 髙橋さん(浪速少年院庶務課)
 樺島さん(浪速少年院支援部門)
 原山さん(浪速少年院支援部門)

Q.普段どのようなお仕事をされているのでしょうか?

恩田さん:教育調査官として、法務省矯正局から指定されたテーマに沿って、少年院で実施されている矯正教育に関する調査研究を行うことが中心的な業務になります。他には、施設参観の受け入れ対応や、大学等に出向いて、浪速少年院の概況説明を行うなど、広報活動も担当しています。

北永さん:主に社会復帰を目指す少年たちの生活指導及び職業指導を担当しています。また、地域の方による講座を開講し、地域との連携を取りつつ円滑に彼らの社会復帰の機会を担保できるよう指導に取り組んでいます。市役所や職場見学を受け入れて下さっている企業の方々と調整を行い、少年院内の他の先生方とも協力して業務を行っています。

髙橋さん
:庶務課全体としては、必要なものを購入することなどをメインに現場の先生方が働くための下支えを行う業務を行っております。また、勤務時間、休暇、手当なども担当しており、先生方が働くための基盤を作ることを担っています。

樺島さん
:就労支援専門官として少年達に対する院内及び院外での就労支援を行うことが主な業務です。院内支援として、少年たちへの就労相談の対応や適性検査の実施、院外支援として、退院後にすぐに働き始めたいという少年のために企業との採用面接の調整などを行っています。

原山さん
:修学支援専門官として、主に高校への復学や専門学校、大学への進学・編入等を希望する少年への指導を行っています。入院後すぐに進路に関するアンケートを実施し、就職希望か進学希望かそれとも未定かを把握することで、適切なサポートが出来るようにしています。

Q. なぜこのお仕事に就かれたのでしょうか?

恩田さん:元々人と関わる仕事がしたいという思いがありました。法務教官の仕事は24時間365日、少年たちと関わる仕事です。その関わりの中で少年たちの成長していく姿を見ることができるというところが、数ある公安職の仕事の中でも特徴的な部分だな思い、職業選択の際、そこに魅力を感じました。

髙橋さん
:私は元々刑務官だったのですが、働く中で(更生という観点で)大人たちを自分がどうにかできるかというと少し難しいと感じ、自分が本当になりたいのかという点でも悩んでしまうような感じでした。それをきっかけに、大人ではなく、まだ成長途中である少年たちに対して何か役に立てないかという思いが芽生え、法務教官の採用試験を受け直して現在の仕事に就きました。

Q.お仕事を行う際に大変なことはございますか?

恩田さん:少年院の仕事は多くの方々にとっては馴染みが薄く、十分認知されているとは言い難いかも知れません。一方で、ここにいる少年たちは、いずれ必ず地域社会に戻っていきます。だからこそ、少年院でどのような教育活動が行われているのか、多くの方々に知っていただくこと、理解していただくことが大事だと思っていますし、現在のようなコロナ禍にあっては、特に難しさを感じるところでもあります。

樺島さん
:就労支援を重ねていく過程で、未成年者については保護者の方の同意を得る必要があるんですね。家庭環境が複雑で連絡が取れないケースもあり、同意書がないから中々手続きが進められないといった困りごとが多いと感じています。

原山さん
:学校は入学時期が決まっていることもあり、進学希望の少年の入所時期によっては順調に進められる場合と、いかない場合があります。そういったタイムラグをいかに上手く調整して少年への動機づけを行うかという点が難しいため、常に意識するようにしています。

Q.少年達は少年院でどのような生活をしているのですか?

北永さん:平日の午前は基本的に職業指導として、資格試験や技術試験に向けて学び、高卒認定試験の時期は、勉強をする時間になっています。午後は実際に物事を体験し、少年たちが様々な気づきを得るための時間や運動を通じて健康面を大切にすることを学ぶ時間として使っています。夜間は少年たちが自身の努力目標に対する考えを表現したり、生活面での困りごとを聞くための集会の時間にしています。また、社会適応訓練の時間に充てている時もあります。土曜日、日曜日には、職員の方でピックアップした映画を見て過ごす時間もあります。

Q.少年たちと接する際に気を付けていることはありますか?

恩田さん:一番大事だなと思うことは少年たちをよく見ることです。頑張っている様子や問題となる行動も含めて、日々の行動をしっかり見ることによって、少年の心の変化や成長している姿に気づくこともできますし、適切なタイミングで働きかけることもできると思っています。

髙橋さん
:私が現場にいたときの話ですが、行動観察を行うことと子どもたちの見本になるということです。行動面や技術面での見本というよりは人としての生き方の見本です。少年たちは私とは全く違う生き方のなかで幸せを感じたりしています。それに勝てるというか、そっちもええかと感じてもらえるようにならないと、まず生き方を変えようとはならないと思うんです。なので自身がいいなと思えることをちゃんと伝えて、こういう生き方もあると彼らの選択肢の一つになれるような大人でありたいとは思っていました。

Q.少年院以外の施設との連携等はあるのでしょうか?

恩田さん:少年院の活動は、多くの関係機関・団体、民間協力者の方々の協力によって成り立っています。保護観察所や家庭裁判所、少年鑑別所等の関係機関はもちろんですが、特に最近では地方公共団体との連携も非常に大切なものとなっています。また、協力雇用主や更生保護女性会の方々、教誨師や篤志面接委員の方々など、外部の方々にもご協力いただいています。就労支援に関しても、外部の方々との連携というのは非常に大切ですよね?

樺島さん
:そうですね。就労支援は外部の方の支援なしではやっていけないです。

恩田さん
:保護観察所やハローワーク、就労支援事業者機構、その他就労支援に関する関係機関の方々と密に連携を取る必要があります。

Q.矯正、更生というものをどのようなものだと考えていますか?

恩田さん: 一般的には犯罪や非行から立ち直り、社会の一員として、普通に生活していくことだと思うんですが、矯正という言葉は、「歯列矯正」という形で使われるように、「曲がったものを直す」という意味があります。ここにいる子どもたちは、年齢的に人生の土台を作っていく大切な時期にあるので、少年院での様々な経験を通じて、これから先の長い人生を自分の力で真っすぐに歩いていける、そのための土台を作れるようサポートしていくことが法務教官の仕事だと思っています。一方の更生という言葉には「生まれ変わる」という意味があるのですが、犯罪や非行によって、一度つまずいてしまった人であっても、どこかに「変わりたい」、「立ち直りたい」という思いを必ず持っています。そういう気持ちをしっかりと汲みとった上で、根気強く働きかけていくことが大切だと思っています。

Q.少年が地域社会に帰っていく際に、ほしい援助や制度はありますか?

樺島さん:家庭環境が良くなくて出院後に住み込み就労を希望する少年が増えているのですが、働き始めてから初任給が出るまでの約2か月の間は生活費がない状態のため、住み込み就労の少年の世話をする雇用主の負担が大きくなってしまっています。そのため、出院後、一時的に生活費が賄えるくらいの助成金があればいいなと考えています。出院後の収入が無い期間というのはそれだけで就労や更生のモチベーションを奪ってしまうので、そこを穴埋めする何かがあればと思っています。

原山さん
:少年院の職員は基本的に出院後は関われない立場にあり、出院後の修学支援は社会や学校にお願いするという形になります。近年ようやく、民間の資金を活用して、出院後の学習支援を含む生活支援のサポート事業が始まりました。しかし、これも地域限定のもので、尚且つ就労がメインの支援になっています。少年たちが在院中から外部の方と連携して、出院後しばらくは少年たちが安心して就労・修学できるような制度ができればいいなと思います。また、少年だけでなく、保護者にも支援が必要な方が大勢いますので、総合的なサポート体制が確立されるといいなと考えています。

〈感想〉

廣田・水野:少年の矯正について現状から今後の展望まで多岐にわたり詳細に説明いただきました。浪速少年院のみなさんがどのような思いで日々の業務にあたっているのかを知ることができ、改めて矯正とは何かについても考えることができました。そしてなにより、みなさんが少年たちのことを第一に考えて活動されている姿勢がとても伝わってきた点が非常に印象的でした。