【インタビュー報告・原稿】森井花音・廣田貴也
《今回のよりそいさん》福田哲子(ふくだてつこ)さん
1940年生まれ。鳥取県出身。大阪府生野区出身の夫と出会い、生野区へ越して来る。当時生野区の治安はよくないという風潮があり大阪に行くことを周囲に反対されたが、住居がない人たちにボランティアで手を差し伸べる夫とともに活動を行うようになった。今年1月に事業所の社長でもあった夫が亡くなり現在はセンターを支える役目を担っている。最近の楽しみは17人いる孫たちの成長を見ること。
☆インタビュー日が祝日だったこともあり、現場でお仕事される2人の方がインタビューに参加くださいました!
- 入江愛禮(いりえあいれ)さん:1960年生まれ。
- 康英美(かんよんみ)さん:1963年生まれ。
〈社名〉(株)水際 いこい介護センター
ー普段、どのような活動をしていますか?
訪問介護を行い、高齢者や障害者の自立支援をしています。現在利用者は70名ほどです。サービスは主に3つあり、①ケアプラン
に沿って計画書を作成する、②身体介護、③生活援助です。➁身体介護は、重度の方だと排泄、入浴の介助、食事補助を行う場合も
あります。③生活援助は、掃除や洗濯になります。これらサービスは利用者に合わせて計画を立てて提供します。私たちはヘルパー
と利用者の間をつなぐ役割です。保険が適応される場合にはその中で支援を行えるように、そして利用者、ヘルパーのそれぞれの立
場を考えて携わるようにしています。
ー司法福祉に関わることについて教えてください
福田: 今年(2021年)1月に社長(福田さんの夫)が亡くなりました。夫は生野区で育ち、困っている方々を間近で見てきて、救いあ
げたいという思いがあり今の事業所を立 ち上げました。刑期を終えた人も快く受け入れたいという想いを、私は受け継い
でいます。私も社長も入江もクリスチャンです。どんな人であっても変わらない存在というクリスチャンの信念を持って事
業を行っています。
ー事業立ち上げに至った経緯を詳しくお聞かせください
福田: 私は鳥取出身です。夫と出会い、大阪に行くのであればせめて生野区には行くなと周囲に言われていたんです。「生野」
には「いくな」ですよ(笑)。でも生野に来て50年になりました。
夫は生野区で生まれ育ち、色んなことを見てきました。夫が小学生のとき、母が闘病生活を送ることとなり、その世話を
ずっとしてきたようです。今でこそ病院に介護タクシーで連れて行くことできますが、当時はそんなものはありませんでし
た。
10年15年ほど前ですが、ここの地区は公園でブルーシート生活をなさる方がたくさんいました。そこを主人と歩き、衣類
や食べ物を提供して回りました。心からその人たちを支えたいと思って回っていたようです。だから私も夫が「おにぎり20
個作って」という要望に応え、携わってきました。
その後介護保険制度として事業所を立ち上げました。当初は何もないところからでしたが、一つ一つが目に見える形で増
えて今の状態になりました。
ーお仕事をする中でのやりがいや苦労したことはありますか?
入江: クリスチャンの基本的な考え方として、「人間みな平等。環境が整えば普通に私生活ができる」というものがあります。
でも、理念と現場での関わり方では違いを感じますね。そんなときは、「人間みな平等」という基本に立ち返ります。
「その人の人生、生活を一緒に支えていくんだ!」と。支える中で、喜びも悲しみももちろんあります。でも一緒に考えて
いくことが大切かなと思っています。
康: 訪問介護の仕事を始めた当初から同じ気持ちで接してします。利用者は一人ひとり違います。問題が生じたときも、毎回違
うものとして受け止めないと対応ができません。基本として考えていることは、「自分に置き換える」ということ。「認めて
もらいたい。尊重してもらいたい」という思いはみな一緒です。
福田: 一般の高齢者と罪を犯した人とを受け入れるにあたって、ヘルパーさんにどう関わってもらうのかというところが難しい
ですし、今でも手探り状態です。利用者一人ひとりによりそい、お話をしながら進めています。ときには暴言を吐き暴れる
こともあります。そんなときでも、社長の考え方の通り、「どんな場合でもどんな人でも諦めない」という想いを持って関
わるようにしています。罪を犯しても再び社会で生活できるように、過去を捨てて立ち上がりその人が変われるように、関
わっています。
ー支援をする上で心掛けていることや大切にしていることを教えてください
康: 支援をする際は明るい気持ちで接し、相手の方が「いい感じ」になるようにと心がけています。
福田: 利用者の方を守りつつ支援していく立場は、難しいところがあります。先ほど言ったように、私たちはみんな平等であり、
私もこの人も変わらないという考えで利用者に関わっています。しかし、一般のヘルパーさんが重い罪を犯した人に支援を行
う場合は、ヘルパーさんも不安があるため、中々関わる事ができません。そういった状況では、利用者一人一人のことをヘル
パーさんに詳しく説明した方が良いかどうかを判断するなど、ヘルパーさんと利用者の双方に配慮した対応をとることが重要
です。そのため、どうすることがヘルパーさんと利用者さんを上手く繋げるための最も良い方法となるかをその都度検討する
ようにしています。
ーほしい制度はありますか?
高齢になってから何度も刑務所に出入りしてしまっている方々の行き場を確保できるような制度が出来たら良いと考えています。
なんとかそういった方々を少しでも支援できる施設的なものが実現したらという願望もあります。
また、受け入れた方の中には、徘徊を繰り返している方もいます。こういった方は24時間付き添う必要があり、現在の介護保険
内では対応することができません。介護保険外の部分はどうしてもボランティアでという形になってしまいます。そのため、介護
保険で賄うことができない部分にいる方にも関わることができる制度もほしいです。
そして高齢者が格段に増えた現在では、車いすなどを使いながら刑を受けている方も多く、中での介護は大変だと聞いておりま
す。車いすのような方々が支援を受けて、なんとか一般の方や若い方と密につながり、支えてもらえるという流れが実現できれば
なと思っています。
最後に、年金だけでは生活できずに福祉を頼りにする必要がある高齢者の方も多いです。その中には一人で頭を抱えてしまい、
軽微な犯罪に手を出す方もいます。お年寄りが生活できずに、結果として刑務所の中で生活をせざるをえないといった状況につい
ても解決できる何かができればと思っています。
ー将来像や目標を教えてください!
一度受け入れたお年寄りの方々を最後までお世話したいというのが私たちの目標です。
―私たち(一般市民)に伝えたいこと、宣伝など、お願いします!
康: 誰もが偏見や差別を持つことなく、受け入れて欲しいと思っています。みんな同じ気持ちで接すること、これが大事なこと
なんじゃないかなと思います。
入江: 自分がかけている色眼鏡を外して欲しいです。罪を犯してしまった人々と実際に接したことがない方にとっては、怖いと
いうイメージがあると思います。しかし、その人たちも私たちと変わらない人たちであり、環境が人をそうさせた部分がた
くさんあると知って貰いたいです。
福田: まだまだ、私たちも研究段階で手探りな状態です。そのため、なかなか世間の方々にどうこうして下さいという要望をお
伝えすることはできません。誰しもが一緒であり、他を批判せず、人を愛する心を持つという信念を守りながら、これから
も私たちが実際に関わっていきます。活動を通じてこういった支援がどれほど大切なのかということを頑張って示していき
たいと思います。
《私たちの感想》
廣田: 前回に続いて今回もzoomでのインタビューだったね。前回よりは慣れた気もするね。
森井: 今回は3人も来てくださって、現場の意見も詳しく聞くことができたね。
廣田: 皆さんが素晴らしい理念を持って活動なさっているんだと知ることができたよ。
森井: 司法と福祉の間で何ができるかという問には私たちも考えさせられたね。私たちも何ができるのか、こうやってインタビュ
ー活動を通して考えている状態でもあるしね。
廣田: この活動を継続していくことで、少しでも司法と福祉の間にある問題へ貢献できているといいんだけど・・・。
森井:「みんな偏見を持ってる」とおっしゃっていたけど、その偏見を少しでも減らせるように、私たちも頑張って活動していきた
いね。
廣田: 本当にそう思う。次回のインタビューも頑張ろうね。
《取材に行っていないメンバーの感想》
お三方の信念がとても強く伝わってくるインタビューでした。罪を犯した人や、彼らを支援する人たち、支援するための制度を受
け入れがたい人たちにも根気強くアプローチしていく必要があり、私たちの「街のよりそいさん数珠つなぎ」の活動もその手助けに
なればいいなと改めて思いました。(佐藤)
クリスチャンとしての信条をここまで素晴らしい活動に昇華した御三方の言葉に大変感銘を受けました。また、支援が必要な方だ
けでなく、どうしても後に回されがちな支援を実施する方への視点というのは今後私達も強く持っていかなかなればならない点であ
ると学ばせて頂きました。(水野)