今回も学生ボランティアがインタビューに行ってきました!
今回のインタビュー先は「大阪保護観察所」です。
【インタビュアー】廣田貴也
【インタビュー日】2023年8月31日
《今回のよりそいさん》
内田(うちだ) さん(大阪保護観察所 保護観察官)
坂本(さかもと) さん(大阪保護観察所 保護観察官)
丸山(まるやま) さん(大阪保護観察所 保護観察官)
角林(かどばやし)さん(大阪保護観察所 保護観察官)
Q.普段、どのような業務を担っておられるのですか。
丸山さん:基本的な業務は、第一に自身が担当する地域に住んでいる方の保護観察を実施することです。保護観察とは、非行行為を行った少年のうち保護観察処分とされた人や刑務所を仮釈放になった人、裁判所で保護観察付になった人などを相手に、相談や指導をしていく業務になります。保護観察業務は保護観察官と地域の保護司さんが連携しつつ、保護観察の対象となる人との面接を通して、どうすればうまく生きられるのか一緒に考え、様々な指導も行うことで、再犯を防ぐことを目的にしています。
坂本さん:基本的な業務としては丸山さんと同じです。加えて、他の業務としては、地域生活定着支援センターと連携しながら、刑務所からの出所者を始め、被疑者段階で不起訴になった人、起訴されたけれど執行猶予になった人など(これらの人や保護観察の対象となる人などを総称して以下「対象となる人」と記載)が受ける福祉サービスを調整するというものもしています。
内田さん:基本的に保護観察所は加害をした人の指導・援助をする役所ですが、ただ加害があるということは被害があるということですので、被害者の方に対する窓口も担っています。具体的には、加害者がどのような指導を受けているのかを被害者に伝える「通知」、対象となる人に被害者の気持ちを伝える「心情等伝達」などを行い、被害者と加害者の橋渡しを行っております。
Q.どのような思いからこのお仕事に就かれたのでしょうか。
丸山さん:大学時代に福祉心理学を学ぶ過程で、刑務所であったり、犯罪以外では精神疾患での長期入院であったりと長い間社会から離れてしまった方の社会復帰について学ぶ機会があり、この仕事を知りました。何も知らない身からしたら社会に戻って普通に生活するだけですが、それが実は難しいということを知り、そこに関わりたいという思いを抱いたのがきっかけです。
坂本さん:大学時代に少年刑務所への見学の機会があり、その際に更生や立ち直りに関わる仕事があるということを知りました。そして、所属ゼミの教授にも人の立ち直りに携わる仕事はとてもやりがいがある仕事だと言われ、興味を持ちました。中でも、刑務所を出てきてから社会の中で人が立ち直っていくのは大変なことなのではないかと思い、何らかの形で人の立ち直りに関わることはやりがいがあると私自身も感じたため、この仕事を選びました。
Q.指導監督(対象となる人への指導や専門的プログラムを実施すること)および補導援護(社会で生きていくために必要な環境やスキルの構築を支援すること)の中での対象となる人との対話において、気を付けていることや心がけていることを教えてください。
角林さん:複雑な言い方にはなりますが、基本的には対応する際に対等な関係ではないといえることがあります。私たちは多少の強制力を伴っておりますし、対象となる人に対する権威的な立場にあるなかで、無意識の威圧感みたいなものも与えていると思います。ただそのような中でも私自身としては、面接の場を対象となる人が正直な思いを話せる安全な場所にしたいということを意識をしています。
坂本さん:保護観察をする人とされる人であるため、業務上権威的に関わらないといけない場はありますが、いい意味で立場等は意識せずに人としては対等であるとは心掛けています。そのうえで、本人がどうなりたいのかという思いを引き出したうえで、一緒に考えていくということ心がけながら、接しています。
Q. お仕事のなかでのやりがいや大変なことを教えてください。また可能でしたらお仕事をされていて良かったと思える具体的なエピソードも教えてください。
坂本さん:保護観察は一つのケースが終わると、新たに他のケースがくるというように流動的です。その中でいろんな問題や出来事が生じるので、大変なことはたくさんあります。正直なところ、私自身はやりがいよりも大変なことの方が多いかなと感じています。しかし、保護観察を受けている人と接する中で少し変わったな、良い方向に変わってくれたなって感じたときは、少しでも役に立てたのかなってやりがいを感じます。
丸山さん:保護観察の際は保護司さんと何度も相談しながら進めていくことが多いです。その中で、何回も保護観察や非行を繰り返していた方が保護観察最終日にお菓子を持って来てくれた、約束を何度も破っていた対象となる人が最近は約束を守り、パンも持ってきてくれたと保護司さんが嬉しそうに話をしてくれた際は、私もあの時苦労することはあったけど対象となる人と関わってよかったなと嬉しさを感じました。
Q. 更生(矯正)について、どのように考えておられますか。
坂本さん:更生したかしていないかというのは、こっちが決めることではないのかなとは思います。悪いことをしなくなる、犯罪行為をしなくなるといった社会的に見た更生っていうのはもちろんありますが、本人が望んでいるかつ社会的にみても認められるという形を目指すのが一番大事かなと思います。
角林さん:犯罪をさせないというのがベースにはありますが、対象となる人が犯罪をせずに自分らしく生きて行ってもらうのが一番しっくりくる表現かなって思います。
Q. 他の矯正施設(刑務所等)との違いについて教えてください。
角林さん:一言でいうと、やはり施設内処遇(刑務所や少年院などの矯正施設で実施される処遇)と社会内処遇(社会での生活を行いながら実施される処遇)の違いという表現になりますね。保護観察では対象となる人を制限するものとして遵守事項というものがいくつか課されます。それでも、刑務所などの矯正施設と比較すると緩やかというか、遵守事項に抵触しない範囲であれば、その人らしい生活を送ることができるところが一番違いとして大きい気がします。
坂本さん:社会内処遇は矯正施設の中と違って社会の中での誘惑もたくさんあって、その状況下でも犯罪や非行につながらないようにこちらが助けていく必要があります。そういった意味でも、刑務所等ともやっぱり違うかなと思います。
Q.更生支援や再犯防止における保護観察所の重要性について教えてください。
内田さん:施設内処遇を受ける中で、本人が「外に出た後に今度はこうして生きていこう」と考えたことを社会内処遇は社会の中で実践させ、時には失敗しながら修正していきます。こうした社会復帰のための助走期間に伴走できるのが、保護観察所の重要性だと思います。
Q.他の矯正施設や地域との連携等はございますか。
坂本さん:刑務所に入所している人の中には、支援が無いと社会に戻った時に上手くやっていけない人がいます。そこで、刑務所にいる段階から地域生活定着支援センターと連携して、出所後の福祉サービスや行き先を調整したりなどを行っています。対象となる人は地域に帰るわけなので、施設を運営されているなどの福祉分野の方を始めとする地域の方々とも協力しております。また前科がある、対象となる人であるといった事情の人を雇用してくれる協力雇用主とも連携しています。協力雇用主の元で働く際には、私たちも上手く定着できるようにサポートし、必要に応じて対象となる人に関する助言も行っています。
Q.市民の方々にお伝えしたいこと、理解していただきたいことはございますか。
坂本さん:市民の方々には、保護観察所は「浮き輪」みたいなものと考えていただければと思っています。例えば、刑務所からいきなり出てきて、浮き輪も無しに海に放り出されるのはしんどいと思います。上手く泳いでいけるようになるために、私たちが「浮き輪」となって、地域で上手くやっていけることを助けています。そしていずれは、「浮き輪」もなく地域という海の中を自分の力で泳いでいけるようになるために、お手伝いをしていくというイメージで行っています。保護観察所はそういった存在なんだと思っていただければありがたいです。
《インタビューの感想》
インタビュアー:廣田さん
保護観察官のみなさん全員が各質問に対して詳細にお答えくださり、保護観察所における業務について非常に貴重なお話を聞かせていただきました。特に、保護観察所は社会復帰のための助走期間になれる、「浮き輪」みたいなものと語られた点がとても印象深かったです。今回のインタビューを通じて、対象となる人がより良い形で社会に戻ることを目指して、保護観察官のみなさんが常に真剣に対象となる人と向き合いながら仕事をされている様子が強く伝わってきました。