《 街のよりそいさん数珠繋ぎ》(インタビュー10回目)

記念すべき10回目のインタビュー訪問となりました!

訪問先は「大阪拘置所」です。

【インタビュアー】廣田貴也

【記事作成】廣田貴也&よりそいさんメンバー

〈インタビュー日〉

2024年7月25日(木)

〈今回のよりそいさん〉

今井さん(大阪拘置所 矯正処遇官)

米永さん(大阪拘置所 調査専門官)

坪井さん(大阪拘置所 被害者担当官)

Q. 普段、どのような業務を担っておられるのですか。

今井さん:私は処遇部門に所属しており、処遇部門にある様々な業務の中でも職員育成担当として、新しく採用された職員等の研修に携わり、教育を行っています。研修としては、大阪管内の拘置所や刑務所などの新採用職員が集まって研修所で行われるものがありますが、私の業務としましては、研修所に行く前の職員に基本的な刑務官としての動きや心構えを教え、研修所から拘置所に戻ってきた職員に対しては実務に携わりながら、助言や相談を行っています。

米永さん:調査専門官として、受刑者の改善、更正を図るために面接や心理検査を行っています。それらを通じて、受刑者がなぜ犯罪をしたのかの原因を探り、解釈や分析を行い、今後再犯をしないためにはどうすればよいかといった処遇上の指針を決めています。例えば、知的障害を有する方には、療育手帳取得のための方針を立てたり、薬物事犯の方には薬物をやめるための指導を受ける方針を取るように決めたりしています。

 受刑者は長い受刑生活を送る中で、当初は気づいてなかったけど、家族のことで悩んでいたといったような様々な問題が出てくる場合もあります。そのような場合には、助言を行うカウンセリング的な関わりを行うこともあります。

 また拘置所にいる調査専門官は、刑が確定次第、移送先を決める必要があるため、受刑者をどこに移送すべきかの調査をするという業務もあります。

 坪井さん:私は指導部門の教育部署で勤務しており、2023年の12月に新設された刑事施設における被害者等の心情等の聴取・伝達制度における被害者担当官を職務としています。業務内容としましては、被害者の方の被害に関する心情、被害を受けた方の置かれている状況、受刑中の加害者の生活や行動に関するご意見を伺い、加害者に伝えるものになります。これらを通じて、加害者に被害の実情等を直視させ、反省や悔悟の指導を行っています。

Q. どのような思いからこのお仕事に就かれたのでしょうか。

今井さん:治安の維持に関わる仕事に関わりたいとの思いがありました。ただ学生の頃は刑務官という職業も初めは知らず、どちらかといえば警察官や消防士のイメージを持っていました。そのような中で刑務官のことを知り、当時は現在ほど刑務官の業務についての情報がありませんでしたし、周囲にも刑務官の業務を知っている人はいなかったものの、刑務官は治安維持には欠かせない、治安の最後の砦であるという認識から、警察官よりも自分に向いているのではないかと思い、志望しました。

Q. 働くうえで、大切にしていることはございますか。

米永さん:業務を行う中で、ちょっとしたことでも、大きなミスにつながったりすることがあります。そのため、わからないことや、少しでもこれはどうなんだろうと疑問に思うことがあれば、必ず他の人にも聞くように日ごろから注意しています。

また、私は調査専門官という心理職であるため、日々色々な学説が出てきたりしている中で、必要な知識をアップデートするように心がけています。

Q. 働き始めて予想外だったこと、考え方が変わったところがあれば教えて下さい。

坪井さん:刑務官と言えば、刑務所で受刑者を指導しているイメージでしたが、大阪拘置所では未決拘禁者(裁判での判決がまだ確定してない者)の対応が多い点が意外でした。未決拘禁者の生活も購入制限こそかけられているものの、お菓子やジュースなどを買うことができたり、読書できたり、入浴や運動の機会も保障されていたりしており想像よりも自由であった点も意外でした。

米永さん:刑務官の方には怖いイメージがあると思いますが、優しいです。ジョークがうまく、困った時に笑わせてくれることがあり、優しい人が多くいることをわかっていただけたら嬉しいです。

Q. 拘置所にいる方々と接する際に気を付けていることはございますか。

坪井さん:被収容者の身分にあった対応を心がけています。大阪拘置所は刑事施設の中でも特殊な施設であり、未決拘禁者、受刑者、死刑確定者等を収容しています。未決拘禁者の処遇にあたっては、未決のものとしての地位を考慮して、逃走及び罪証隠滅の防止並びに防護権の尊重に特に留意しなければなりません。出廷勤務・護送勤務を行う際は、逃走を図られないよう組織で対応することが大切です。慎重に対応しています。

 今井さん:体調管理や身だしなみを整えることが大切です。個人としてでなく、組織として行動しているため、指導者の立場にあるにも関わらず、日々の体調管理、制服の服装や身だしなみに気を使うことができていないと、被収容者からの反感を買うことに繋がります。

Q. 拘置所で実施されているプログラムにはどのようなものがあるのでしょうか。

坪井さん:私は一般改善指導の実践のうち、受刑者に向けたオープンダイアログと呼ばれるものを行っています。他の一般改善指導や特別改善指導については、専門的な知識を有した教育専門官からの回答になります。

【教育専門官の方によるご回答内容】

『刑事施設においては、刑事収容施設法第103条に基づき、受刑者に対して犯罪の責任を自覚させ、健康な心身を培わせ、ならびに社会生活に適応するのに必要な知識及び生活態度を習得させるために必要な指導(改善指導)を行っています。未決拘禁者には実施しません。この指導は本人の意欲も考慮されるものの、再犯防止等の観点から「支援」ではなく「措置」として実施されるものです。改善指導には、法律及び規則に改善すべき事情の規定のある「特別改善指導」というものと、施設の事情(指導体制)や収容する受刑者の年齢や性質等に応じて刑事施設の長が定める「一般改善指導」があります。

 当所においては、特別改善指導として、薬物に対する依存がある者を対象とした薬物依存離脱指導、殺人や傷害致死などの生命犯で謝罪や被害弁償等について特に考える必要のある者に対する被害者の視点を取り入れた教育、交通事犯に対する交通安全指導、勤労習慣が身に付いていない者や具体的な就労先がないにも関わらず就労支援を利用しない者に対する就労準備指導を実施しています。

 一般改善指導は、財産犯や粗暴犯を対象にした被害者心情理解指導、アルコールやギャンブル依存が疑われる者に対するアルコール依存回復プログラム、ギャンブル問題改善プログラム、特殊詐欺事犯で受け子・出し子など組織末端の者に対する特殊詐欺事犯指導、女性の窃盗事犯で主に対人関係に重きを置いた女子受刑者の特性に応じた指導プログラム(窃盗防止指導)があります。このほかに、課題作文や視聴覚教材の視聴、精神医療において一部で注目されているオープンダイアログを取り入れた対話実践なども一般改善指導として実施しています。

 とは言いつつ、当所受刑者について数年前に調べたところ多くの人が正確なACEsではありませんが小児期に逆境体験をしていることが分かりました。指導者が受刑者のトラウマ体験にアプローチしたところ、被虐待経験などが語られることが多くなりました。現在の体制では問題行動別の指導となっていますが、機会と捉えて幼少期の体験について聞き出し、問題行動の根本を探る指導を展開しています。』

Q. 未決拘禁者の方々はどのくらいの期間を拘置所で過ごされているのでしょうか。

今井さん:事件の内容に深く関わっており、千差万別です。また初犯なのか累犯なのかといったことや、裁判は三審制のため、その時間にもよります。公判前整理手続きが続いて、やっと裁判が始まるというケースも見てきました。長いものですと10年以上拘置所にいたケースもあります。一概には言えませんが、期間として一般的に多いのは数か月です。

Q. 拘置所と刑務所における役割等の違いについて教えてください。

米永さん:刑務所には主として刑事裁判で実刑が決まっている人や懲役刑を受けて出所を待っている人がいます。刑務所だと色々な改善指導や資格取得のためのプログラムなど本格的な受刑や改善・更生に向けた指導があります。なので、受刑者がメインとなっているのが刑務所です。拘置所には被疑者・被告人といった未決拘禁者が多いです。ただ、受刑者もいて収容者の食事を配膳したりしている人もいます。拘置所では未決拘禁者もいれば受刑者もいるという点では大きな違いだと思います。

Q. 一般の人々に伝えたいことはありますか?

米永さん:堅いイメージがあるし、拘置所ってなにやってるのかなって思うところもあるかもしれないですが、職員はみんな少しでも治安が良くなるように、犯罪する人が減るようにといつも考えながら受刑者に働きかけているということは理解してもらえたら嬉しいと思っています。

〈感想〉

私たちも今回のインタビューを行うまで、拘置所で行われている具体的な業務や刑務所との違いなど知らない部分が多くあり、勉強になりました。加えて、拘置所の職員の方が抱く治安維持に対する真剣な気持ちを強く知ることができました。また私たちのインタビューに対しても非常に丁寧かつ詳細に回答して下さり、刑務官の方が優しいということも強く実感しました。

インタビューの様子