「大阪府福祉基金助成事業」について

「大阪府福祉基金」は、府民からの寄附をもとに、府民の社会福祉活動の振興(ボランティア活動など府民が行う自主的な地域福祉活動を支援すること)を目的として、昭和55年4月に設立されました(大阪府基金条例)。そして、毎年、基金の運用益等を活用した「地域福祉振興助成金」として、府民の自主的な社会福祉活動の支援がなされています。

平成28年度は、助成対象となる事業として、「地域福祉の振興に寄与する事業」と、「府民の福祉意識の向上に寄与する事業」の二つの事業分野が提示される同時に、「活動費助成」と「地域福祉推進助成」の2区分のおける公募が示されました。

一般社団法人よりそいネットおおさかは、「地域福祉推進助成」における「【民間団体提案型事業】民間団体からの先駆的な事業等の提案」の区分に、“犯罪による新たな被害者・加害者を生まないための自立支援おおさかネットワーク事業”(2016年4月1日~2019年3月31日の3年間:但し、事業提案は毎年行う)の事業提案を行い、審査の結果、事業採択となりました。

次に提案のポイントとなるところをご紹介します。


事業概要

事業の内容

犯罪による新たな被害者(必要な支援が行き届かずに罪を犯した「刑余者」・被告等も広義の被害者と捉える)を生まないための社会の仕組みづくりを目的に、大阪府内の福祉・司法・医療関係者と連携し、地域や支援者、当事者が必要とする研修会や交流会、情報発信、居住支援、就労支援等の事業を実施する。

事業の対象者

  1. 支援者を支える:高齢者・障がい者等の福祉関係者、保護司などの司法関係者、医療関係者
  2. 当事者を支える:更生保護施設入所者等の「刑余者」で就労やボランティア等を希望する人
  3. 住民に知らせる:一般市民
  4. その他:将来的には犯罪被害者ならびに加害者家族など

事業にかかる現状と課題

福祉の援助が必要な罪を犯した人または罪を償った人々の支援の現状

2010年7月より、大阪で地域生活定着支援事業がスタートし、司法機関と福祉機関が連携し、高齢・障がい・帰住地がない・地域生活が困難など、福祉の援助が必要な罪を犯した人または罪を償った人々を支援している。

大阪の特徴としては、他府県定着支援センターからのコーディネート依頼(大阪に帰住を希望する)が半数を超えることや、被疑者・被告人段階での福祉的支援への誘導やつなぎを行う大阪地検・大阪弁護士会・大阪社会福祉士会・地域生活定着支援センターが連携した「入口支援大阪モデル」も活発なことがあげられる。

一方で、罪を償った「刑余者」や必要な福祉サービスが行き届かずに罪を犯した被疑者等は「犯罪者」というスティグマなどにより、必要な支援を構築するための受入体制が十分とは言えない。

また、受入等に積極的な福祉・司法・医療関係者等においても、福祉の援助が必要な「刑余者」等の支援について、研修の機会や情報などが不足している結果、自領域の対応が中心となっている。

 

司法と福祉の制度の谷間で福祉の援助が必要な層

例えば、地域生活定着支援センターへの「特別調整」については、帰住地が見込めない人を対象に矯正施設内で福祉的支援が必要と判断され、本人同意を得たケースに限られており、疑いがありながらも「特別調整」を受けずに帰住地が見込めないまま出所した後、困窮状態に陥ってからの相談ケースもある。

例えば「住まい」については、帰住地のない人への支援として、更生保護施設や自立準備ホームはあるが、利用期間である3~6カ月以内に就労自立が見込める人の受入が中心となり、ボーダー層とされる人や、障がい者、高齢者でありながら帰住地がない場合は利用できないケースも多い。

例えば、「就労」については、矯正施設内で各種訓練・資格取得講座や受刑中のハローワーク求人紹介などがあるものの、限られた予算の中で効果の最大化を目指すために、「住まい」と同様に就労自立が見込まれる人が中心となり、「半福祉・半就労」のような人への支援は限定的である。

矯正施設等の司法領域では「就労可能」と「福祉対象」で二分され、障がいの疑いのある人々などは制度の谷間で孤立状態・困窮状態に陥りやすい。

 

福祉の援助が必要な罪を犯した人または罪を償った人々の支援の課題

十分な受入体制の構築に向けては、下記の3項目が課題となっている。

  1. 支援者を支える:支援のすそ野を広げるための支援機関や支援者への啓発と相互交流、支援プログラム構築、出所後に各種調整を行うための「住まい」づくり
  2. 当事者を支える:当事者の「出番(就労・ボランティア)」の創出、自己の特性理解を促進し、罪を再び犯さないための対処法を学ぶ場の提供
  3. 住民に知らせる:知らないことによる偏見や誤解の解消に向けた情報提供

事業の必要性

自立支援おおさかネットワーク事業の必要性

自立支援おおさかネットワーク事業では、下記3つの事業の実施を計画している。

  1. 学びの提供:2カ月に1回程度の支援者向け研修会。3カ月に1回程度の支援者向け事例検討会。支援団体交流会。よりそいネットおおさかHPコンテンツの充実。啓発冊子の作成。ボランティア情報等の提供など。
  2. 住まいの提供:帰住地がなく、例えば障がい者、高齢者で就労自立が困難な自立準備ホームや更生保護施設などを利用できない矯正施設退所者を受け入れるためのシェルター的「住まい」の確保など。
  3. 就労支援プログラムの提供:矯正施設や更生保護施設等と連携したビルメンテナンス訓練事業。矯正施設内での職業人講話など。

学びの提供は、地域・支援者にとっては支援手法を学びながら「刑余者」等への理解を深めることにつながり、支援機関の連携やそのすそ野を広げるためには欠かせない。いわゆる「入口支援」においても多職種関係者の相互の交流や意見交換の場が求められる。

住まいの提供は、矯正施設から地域社会への生活を移行するうえで、福祉や地域生活支援体制の構築がスムーズになり、安定した地域生活が期待できる。

就労支援プログラムの提供は、生活困窮者やホームレス等の支援機関の利用時に「刑余者」であることがわかるケースも多いことから、矯正施設や更生保護施設段階から早期の就労支援を実施することで起こす必要のない犯罪予防にもつながる。なお、無職の保護観察者の再犯率は有職者の4倍という統計もある。

事業の実施に向けては、福祉・司法・医療分野などいずれの領域への一定の理解とネットワークを有していることが求められるため、地域生活定着支援事業での経験を有する当団体が関係団体と協働で展開することが望ましいと考える。


事業を実施して期待される成果及び効果等

自立支援おおさかネットワーク事業に期待される成果・効果

犯罪による新たな被害者・加害者を生まないことを目指す事業であり、大阪府内における福祉的な支援を要する「刑余者」等への自立支援の理解を深めることを将来的な成果として期待している。

2016年度の助成事業実施期間中に望める具体的な目標としては、

①学びの提供事業

各回研修会(交流会)・検討会・セミナー参加者:320人・団体
(30人×6回・20人×3回・80人×1回)
HPコンテンツの新設:3コンテンツ
冊子の作成:1冊

②住まいの提供

シェルターの確保:1室
利用者:2人
ボランティア等支援者:2名

③就労支援プログラムの提供

ビルメンテナンス訓練事業:1回 訓練生5人 就労者:2人
2017年度以降の助成事業実施期間中も同様に、各目標を定め、上記3つの事業を実施する。
また、就労支援プログラムにおいては、生活困窮者自立支援制度における各種事業は市町村単位での実施となっていることから、広域的な就労支援体制の構築も視野にいれて事業を実施する。


助成期間終了後の事業展開

助成期間終了後の事業展開

事業終了後は、取り組みや活動で培われた関係性をもって、支援者や協力者を募り、引き続き事業の継続を図る。財源的には、研修会の研修会の一部有料化、支援者の会員加入などにつなげ、事業の継続を図る。また、住まいについても地域での支援関係が継続できるよう働きかけるものとする。

なお、将来的にはテーマを犯罪被害者や加害者家族などの支援、「刑余者」への学びの場提供などの事業を展開する。

事業計画

申請事業は、広域、多岐にわたる関係機関や多職種の専門職、当事者などが信頼関係を構築し、誰もが地域での安心のある暮らしができるネットワークを構築するため、3年間の事業として提案する。

刑を終えた人の課題は、国連人権教育の10年でも指摘される課題であり、法務省をはじめ地域の保護司などのボランタリーな活動で支えられているが、罪を犯した人への偏見や排除といった社会意識の中で、十分に制度やサービス、支援などが届いていない現状も見られる。近年特に課題として挙げられてきた身寄りのない高齢者、障がい者の矯正施設退所者の生活支援など、地域社会全体で支える古くて新しい課題がある。

これら解決のための申請事業を実施していくためには、広域、多岐にわたるネットワークが不可欠であり、それぞれ活動や取り組みを通して相互の信頼関係や関係性の構築がベースとなる。広域的な市民の方への啓発、支援者・理解者の拡大、当事者への住まいや就労での実践の積み上げの発信など、事業を効果的、相乗的に展開するため一定の期間の継続した取り組みが必要と考える。

本提案は、2016年度~2018年度の3ヵ年間の事業として提案しており、原則として2017年度及び2018年度についても、概ね2016年度の事業計画内容の継続発展を想定しています。


学びの提供

学びの場事業

支援者向け研修会(団体交流会含む):5月以降 2カ月に1回をめど 計6回

想定するテーマ①

「入口支援」「『刑余者』等の就労支援」「住まい」「加害者家族」「被害者家族」「SST」「アンガーコントロール」「薬物・アルコールなど依存症」etc
事例検討会:7月以降 3カ月に1回をめど 計3回 
(ファシリテーターは、立命館大学の中村正教授に依頼予定)

想定するテーマ②

これまで地域生活定着事業等で受け入れ経験のある施設関係者ならびに関心のある施設関係者による、検討会。
市民向けセミナー:1回

想定するテーマ③

地域でのつながりづくりや人とひととの関係を生みだす取り組みや支援が、犯罪による新たな被害者を生まないための社会の仕組みづくりとなることをテーマに開催。
(例えば、著名な人を招へいしての講演会や、地域に出向いてのセミナーなど)


情報提供事業

WEBのリニューアル

9月末までをめどに、情報発信のページを新たに設け、テーマごとに情報収集並びに整理する。2016年度は下記のテーマを取り上げて実施する。
「『刑余者』の出番(しごと)」「住まい」「コラム」etc

冊子の作成

立命館大学の団教授と連携した市民向け啓発冊子の作成と配布。

“罪を犯した障がい者や高齢者の支援”ということに直接的な説明ツールではなく、犯罪に至ってしまった背景や障がい特性に思いを馳せることができるようなツールを作成する。そのため、手に取りやすく、読みやすく、わかりやすい『物語』仕立ての小冊子をイメージ。

広く府民の方々を対象に配布予定。配布機会としては、市民向けセミナーをはじめ、「学びの場」を通じての配布や、関係・連携のネットワーク機関に配備していただき、地域の利用者や関係機関に配布する。部数は1,000部(年間)

報告書の作成

年間の取り組みをまとめ、その成果や課題など情報発信するものとする。


住まいの提供

シェルター事業

「住まい」の確保:1室 (年間2名程度)
6月をめどに1室を確保する。

フォローアップ体制の確立

シェルター利用中に地域生活を送るための各種手続きを終えた後の「住まい」確保地域での見守り体制の構築にむけて、ボランティアや地域資源の開拓に努める。

対象者及び期間

対象者は、更生保護施設退所者など地域の相談機関や連携機関からの紹介を受け、ともに地域での生活を支える関係づくりを構築しながら、次のステップに向けて生活を検討する。期間は概ね3か月~6か月程度。


就労支援プログラム

更生保護施設(「和衷会」)等ならびに「大阪ビルメンテナンス協会」と連携し、下記のようなプログラムを開発し、実施する。

プログラム案

コミュニケーション編【3時間×3日程度】
→ 相手との関わり方、人の話を聞く、挨拶、自己紹介など

仕事イメージ編【3時間×2日程度】
→ プロフィール・履歴書作成、模擬面接、OB体験談 等

実技演習編【6時間×5日程度】、実技実習編【3時間×5日程度】
→ 掃き・拭き・洗浄作業、ポリッシャー等清掃器具操作、ワックス塗布作業、ガラス・トイレ清掃等

定員:5人
就労者:2人
回数:1回/年

就労先の確保

訓練生等の就労先の確保にむけて、協力雇用主制度やトライアル雇用など企業等への訪問・説明を行う。

一般就労が困難な層に向けたピアボランティア活動グループの育成支援

就労等が困難な高齢・障がい等の「刑余者」を対象に、就労以外の「出番」創出を目指し、自助サークルなどの育成サポートなどに努め、「ボランティアグループ」の結成を応援する。

具体的には、ホームページ上での情報交換や発信を行い、地域からの清掃活動などのボランティア活動(の創出)や「楽しみ」の共有(社会参加)などを行う。

なお、矯正施設退所者の自助グループが集まることへの地域の抵抗感もあり、具体的な活動を通じて理解を進めていくものとする。

矯正施設内での職業人講話の開催

矯正施設内での就労支援プログラムでの事業実施に向けて、法務省等と調整しながら、職業人講話などから関わりを構築する。