【インタビューアー】廣田貴也・水野亮太・熊井遥
【インタビュー日】2022年5月20日(金)
《今回のよりそいさん》
森川さん(大阪少年鑑別所 鑑別指導官)
岩城さん(大阪少年鑑別所 法務教官)
永尾さん(大阪少年鑑別所 法務教官)
中村さん(大阪少年鑑別所 法務技官)
Q.普段どのようなお仕事をされているのでしょうか。
森川さん・中村さん:少年鑑別所の入所者に対して心理面接や心理検査を行い、非行生起のメカニズムや背景要因を分析して
再非行防止のための指導・支援方針を 作成する業務を担っております。また、地域の非行や犯罪の防
止、青少年の健全な育成を目的として、小学生の方からご年配の方まで年齢問わず、地域住民の方の心
理相談も行っております。
岩城さん:私は入所者に対し、生活態度に関する必要な指導及び助言をしております。様々な少年が入所してくる中で、家庭
裁判所で審判を受けるまでの間、少年たちが心身の安定を図り、落ち着いて過ごすことができるよう生活のお世話
をしており、私は男子寮で、その業務を担当しております。
永尾さん:私も、入所者の中でも、主に女子に対して、生活態度に関する必要な指導及び助言を行っています。24時間体制で
当直も組みながら少年たちの生活を見ており、食事、入浴といった普段の生活のことなどをルーティンで対応して
おります。その他にも保護者の方が面会した際の対応に携わることもあります。
Q.どのような思いからこの仕事に就かれたのでしょうか。
永尾さん:漠然とではありますが、困難を抱えている子供たちのために支援できるような仕事がしたいと考えておりました。
色々と調べていくうちに少年院や少年鑑別所に来てしまう子が貧困や虐待といった困難な状況を抱えているという
話を知りました。そういう子達に現場で関わる仕事こそが自分がしたい仕事ではないかと思って、この仕事に就く
に至りました。
中村さん:元々大学で臨床心理学を専攻しており、大学の実習の中で不登校気味の子など、悩みや葛藤を抱えている10代の子
と関わる機会がありました。そのような子たちとの関わりを通じて、彼らの著しい変化を肌身で感じ、10代の子ど
もの成長する力を強く実感しました。その経験をきっかけに、10代の子を対象とした心理職に就けたら良いなとの
思いを抱き、現在は法務技官として働いています。
Q.お仕事を行う際はどのようなことを大切になされているのでしょうか。
岩城さん:経験上一番大切なのは職員同士のチームワークだと考えています。少年たちは様々な問題を抱えています。時には
嘘をつき、職員同士の仲違いをさせようとする子もいますし、大人を信用しておらず、我々を攻撃対象と見ている
子も多いです。そのため、様々な情報を共有することで職員同士の結束を高め、そのチームワークを少年たちに示
しながら仕事をしていくことが重要であると思っています。
中村さん:少年たちに面接すると、非行・犯罪に至るまでには様々な背景や事情がある子が多いです。そのような本人なりの
思いを、理解しようという姿勢は大事にしています。また少年たちの鑑別を行う際の材料にするために、普段の生
活の中での刺激や我々の指導に対して少年たちがどう反応したのかといった行動観察をすること、そして所内のホ
ウレンソウ(報告・連絡・相談)も重視しています。
Q.お仕事の中でのやりがいや大変なことを教えてください。
森川さん:少年たちには様々な背景があり、逆境や問題などを抱えています。そのため、時には我々が感情的になり彼らのペ
ースに巻き込まれそうになるなど、心理的負担を強く感じることがあります。また、改善や更生の糸口をなかなか
見いだせないケースに触れた時には、しんどいなと感じることもあります。反対に困難なケースでも、関わる中で
希望の光が見えてきたり、少年たちの成長が見えたりすると感動しますし、それが仕事の励みになったりします。
永尾さん:本当に多様な背景や特性を持つ子が入所してくるので大変な仕事ではあります。生活の様子一つ見ていてもいろん
な子たちがいるので、少年たちに接する際はその都度臨機応変に変えていく必要があります。また、彼らが少年鑑
別所で過ごす期間は限られていますが、入所当初に今後について不安を見せていた子が徐々に落ち着いて考えられ
るようになったり、表情が柔らかくなったりする場合も結構あります。その様子を見ると、彼らが落ち着ける環境
を準備してあげられたのかなと励みになります。
Q.矯正、更生というものをどのようなものだと考えていますか?
森川さん:例えば犯罪をやめてから20年も経ってふとした拍子に再犯してしまった人を見ると、どういう風になればこの人た
ちは更生したと言えるのか考えを巡らすことがあります。更生には明確なゴールはないし、短期間で達成できるも
のでもないです。本人の努力はもとより、いろいろな人たちが多面的、長期的に見守り続けていく支援体制が必要
なのではないかなと考えています。つまり、彼ら一人の力ではなく多くの機関や支援者が連携し、息の長い支援を
続けることが大切なのではないかなと思います。
岩城さん:その人の略歴だけを見て、更生が成功しているかどうかを判断することはできません。例えば、施設に再入所する
ことになったとしても経緯をよく見れば彼らなりの成長が見られる事もあるでしょう。矯正施設の職員として関わ
る中でできることは、彼らに今までとは違う生き方を知ってもらうことだと思っています。
Q.少年たちの更生には何が必要、重要だと思われますか?
岩城さん:多くの人が非行や犯罪を行わないのは、非行・犯罪行為をすることで、多くの大切な人やモノを失うことを理解し
ているからだと思います。当然、少年たちにも彼らにとって大切な人やモノが存在するでしょう。そういった人や
モノの価値に目を向けられるようになればいいのかなと思っています。また、失う人やモノがない少年には失いた
くない大切な居場所ができることが大切だと思います。
中村さん:更生においては「居場所」と「出番」がキーワードになっていて、それらが社会でも担保されると良いのではない
かと思います。施設にいると先生が熱心に気持ちを受け止めてくれますが、外に出ると社会の厳しさや寂しさに打
ちのめされてしまう子もいます。社会の中の受け皿に繋がれることは彼らの心の安定に繋がるのではないかと思い
ます。
Q.更生支援における少年鑑別所の重要性について教えてください
森川さん:他の機関と比べると、少年鑑別所の強みはやっぱりアセスメント機能なのかなと思います。非行の背景は非常に混
濁しており少年も混乱しています。そこを冷静に分析し情報を整理するところが我々の強みであると思います。
Q.他の矯正施設や地域との連携はございますか?
森川さん:少年鑑別所は、他の矯正施設との連携なしでは成り立たない施設です。逮捕された少年は、警察、検察、家庭裁判
所、そして少年鑑別所にやってきます。少年鑑別所を出た後は、少年院、保護観察所を経て社会に戻っていきます。
そのため、他機関との連携はとても重要なものだと思っています。また、少年鑑別所は少年たちが少年鑑別所を出
た後のフォローアップ的な支援にも力を入れています。
中村さん:具体的な例でいえば “処遇鑑別”と言って、少年鑑別所職員が、以前担当していた少年が少年院でどのような生活を
送っているのか、どのような成長を遂げているのか見に行くことがあります。また、矯正施設全体としては、少年
が出所後に社会と繋がっていけるように、NPO法人や社会福祉法人と連携するなどシームレスな支援を心掛けてお
ります。
Q.市民の方々にお伝えしたいこと・理解していただきたいことはございますか?
永尾さん:少年鑑別所には、「これからは学校にちゃんと行こう」、「仕事しよう」と、社会の中で生きていけるように何と
か挑戦しようとしている人がたくさんいることを知っていただきたいです。そして、社会に出て大変な思いをして
いる人、孤立して苦しんでいる人が身近にいるかもしれないと思いを馳せていただけると嬉しいです。私たちはこ
れからも、市民の皆さんのお役に立てるように、またご理解やご協力を得られるように頑張っていきたいと思いま
す。
中村さん:一般的に矯正施設って近寄りがたく、なじみのないところだと思いますが、現在は広く相談を受け付けている場所
でもあります。どのような職員がどのような支援を行っているかにつきましては、HPや機関誌等に記載されており
ますので、ご相談がある場合にはお気軽にお問い合わせいただければと思います。
〈感想〉
廣田・水野・熊井:少年鑑別所での業務内容から大阪少年鑑別所のみなさんが少年たちに抱く思いに至るまで、私たちの質問にとても真摯に答えて下さいました。今回のインタビューを通じて、少年鑑別所は少年たちの矯正・更生を支援するだけでなく、地域の方々が抱える問題への支援も行っていることを知ることができ、非常に勉強になりました。そのように大阪少年鑑別所のみなさんが多様な形で多くの方々を支援されていることに強い感銘を受けました。
〈写真〉